自動車整備分野は特定技能制度の対象で、工場の人手不足解消に期待が集まっています。一方で、外国人整備士が現場で直面する課題は多面的です。本記事では、技術・安全、言語、資格・制度、労務、品質・IT、文化・定着の観点から課題を整理し、受け入れ企業が今すぐ実行できる対策を示します。なお、制度や試験、在留の要件は見直しが続くため、最新の公式発表(入管庁・厚労省・国交省など)を必ず確認してください。
Contents
1. 技術・安全:特定整備、EV高電圧への対応
課題のポイント
- 先進安全装置や電動化により、従来の「分解整備」から電子制御装置を含む特定整備へ領域が拡大。
- ハイブリッド/EVの高電圧系は感電・火災リスクがあり、作業手順の厳守と適切な教育が必須。
- トルク管理、締結部の再使用可否、SST(専用工具)など、メーカーごとの規格差を理解する必要。
現場対策
- 「危険源→手順→許容条件」を1枚にまとめた作業シート(写真付き)を整備。
- 高電圧作業は立入区分・除電手順・PPE(絶縁手袋等)をチェックリスト化。
- トルク表と締結履歴を電子化し、再整備時の参照を容易にする。
2. 言語・マニュアル:正確な指示と記録
課題のポイント
- 整備は指示の一語が品質を左右。口頭だけでは齟齬が生じやすい。
- 整備書の専門語(例:締付トルク、クリアランス、面研、偏磨耗)が理解の壁になる。
- 点検記録簿や保証書は、日本語での正確な記載が求められる。
現場対策
- 手順は短文+工程写真で提示。禁止事項は赤枠・アイコンで強調。
- 用語集を二言語で用意し、工具名・部位名はピクトグラム化。
- 検査・記録はダブルチェック。提出前に数値・署名の抜けを自動アラート。
3. 資格・業務範囲・試験:適法に働くために
課題のポイント
- 特定技能1号は分野別の評価試験や日本語要件があり、受験国・実施日が変動する。
- 道路運送車両法上の特定整備の範囲や、認証工場の体制・主任者の役割を理解する必要。
- 試運転で公道を走る場合は日本の運転免許が必要。保険・社内規程の整備も必須。
現場対策
- 採用前に試験合格・在留要件・就労可業務をリスト化し、雇用契約に明記。
- 試験や告示の更新は月次でチェック。受験スケジュールを共有。
- 試運転の条件(ルート・同乗可否・時間帯・事故時手順)を作業標準に組み込む。
注:試験や在留の要件は見直しがあります。採用・配置の判断は最新の入管庁や関係省庁の発表を必ず参照してください。
4. 労務・シフト:繁忙の波と身体負荷
課題のポイント
- 季節・法定点検・車検の波で残業が偏りがち。
- 重量物の持ち上げ、立ち作業、薬品の取扱いなど身体負荷が高い。
- 固定残業やシフト変更の伝達が不十分だと、不信と離職につながる。
現場対策
- 36協定の範囲で残業を平準化。繁忙予測と早期応援要請をルール化。
- 持ち上げ補助具・台車・二人作業を徹底し、腰痛・熱中症対策を標準に。
- 勤怠アプリでシフト変更・残業見込みを可視化。母語併記の雇用条件通知を配布。
5. 品質・顧客対応・IT:ばらつきを抑える
課題のポイント
- 見積り・請求・保証の運用を誤るとやり直しが増える。
- 部品発注やDMS(整備工場システム)の操作習熟に差が出る。
- 顧客説明は日本語が中心で、トラブル時の伝達に壁がある。
現場対策
- 「写真3点セット(不具合・作業中・完了)」を保存し、根拠ある見積に。
- DMS・部品カタログの操作は動画マニュアルで反復学習。
- 顧客説明は日本人担当が実施し、整備士は技術情報の提供に集中。
6. 文化・定着:職場になじむ支援
課題のポイント
- 先輩・後輩の慣習や報連相の温度感がわからず、萎縮しやすい。
- 住居・交通・日本語学習など、生活基盤が不安定だと離職率が上がる。
現場対策
- 90日オンボーディング(入社~習熟)を設計。週次1on1で悩みを吸い上げる。
- 多言語の相談窓口を明示。困りごとは24~48時間以内に対応する。
- 学習支援(日本語・技術)を勤務時間内に組み込む。
受け入れ企業が今すぐできる5つの準備
① 業務の棚卸し
任せる作業を工程単位に分け、必要スキル・日本語レベル・安全リスクを一覧化。
② 標準作業書の整備
短文+写真で作り、禁止・注意は赤枠で強調。トルク表は最新化し電子化。
③ 教育の仕組み化
入社初日に安全教育、1週目に基本手順、1か月でライン独り立ちの到達基準を明確に。
④ 労務とコミュニケーション
シフト・残業・評価のルールを母語併記で配布。勤怠変更はアプリ通知。
⑤ 制度・告示のモニタリング
入管庁・関係省庁の更新を月次確認。試験スケジュールや運用通知の変更を即反映。
重要なお知らせ:本記事は一般的な情報に基づく解説です。試験制度や在留要件、特定整備の取り扱い等は変更される可能性があります。採用・配置・教育の判断は、出入国在留管理庁や関係省庁の最新の公式発表をご確認のうえ行ってください。
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